某日

誰かを本気で好きになったときひとはこうも変わるのかと彼女を見てぼんやり思う
独占欲の口触りとはどんなものだろう
内に秘めているうちはまだいいが、暴発したら?

「暴発したらあの娘はどうなる?」
数ヶ月ぶりに顔を見せた九鵺に訊ねてみたら
「どうにかしてやりたいの?」
質問に質問をぶつけてくるのが彼の基本的な話法であることをすっかり忘れていたためやや戸惑ったが、九鵺の前では、否、彼を含む三人の前では誤魔化しも自己欺瞞も通用しないことを思い出し、
「いや、どうなろうと構わないんだが」
と、正直に答えた

「なら、君の好きな様に振る舞えばいいよ」
寝台の上で本日二杯目の焼酎を舐めつつ隣に座る青年の横顔を盗み見るが、彼は顔の半分を髪で覆っているので笑っているのだか怒っているのだか、元より喜怒哀楽をあまり表に出さない性質であるから殊更判断が難しい
言葉の真意を測りかねていると、九鵺が急に笑い出した
「君は嫌われることに慣れてないね」
そう云って此方を向いた彼の眼はすこし潤んでいて、それを見返すのは何となく憚られる気がしたので
「気持ちの良いものではないでしょう」
できるだけ然りげ無く顔を背けたつもりだったが、さすがに敏い彼は「久しぶりに飲んだもので」と自分の涙目を気にしないよう、穏やかに云った
(そうか、九鵺は慣れているんだっけ)
ぼくの無言の問い掛けにも青年は速やかに対応する
「と云うよりは覚悟していると云った方がいいかな」
「それって、」
「そう、君がよく忘れることだよ」

はっとして振り向いたぼくの頬をぺち、と叩き、九鵺は困ったように笑った
「もう大丈夫だって云ってごらん?」